新しいAIが変えた3手目の定跡と、10の戦法
bocchの「最強」CPUを作り直しました。今までの最強と400局指させたところ、293勝83敗24分け。勝率は76パーセントです。この記事では、新しいAIの作り方と、その目で見直したときに定跡と戦法がどう変わったかをまとめます。
採点表から、盤面を丸ごと見るAIへ
今までのAIは、局面を見て「どちらが有利か」を採点表で決めていました。向こう岸に着いた石は1個で249点、ぼっちの石は減点、動ける手が多いと加点、あと1手で着ける石があれば加点、といった具合です。項目の重さは2万6千局のデータで合わせていましたが、項目そのものは人間が考えたものです。人間が気づいていない形の良し悪しは、採点表には書けません。
新しいAIは採点表を使わず、盤面を丸ごと見て、その局面がどれくらい勝ちやすいかを直接出します。ニューラルネットワークです。何を見ればいいかは教えておらず、自分と何十万局も練習試合をして、勝てる形を自分で覚えました。
練習試合をして、負けた局面を復習して、前の自分と力試しをする。勝てば新しい自分に交代する。これを9周くり返し、交代できたのは4回だけでした。強くなるほど、前の自分に勝つのは難しくなります。
途中で、AIの頭を大きくする実験もしました。形勢の見方は少し正確になりましたが、計算が2倍以上重くなって読める手が1手浅くなり、元のAIに負け越しました。逆に、計算を速くしただけの版は元のAIに57パーセント勝ちました。bocchでは、賢く見ることより、深く読めることのほうが大事だということです。今の最強は、1手3秒で15手先まで読んでいます。
3手目の定跡はどう変わったか
新しいAIの目で、3手目までの定跡を調べ直しました。1手目と2手目はほとんど変わらず、黒は寄り添い、白は肩寄せが本線のままです。変わったのは3手目で、大きく2つのことがわかりました。
1. 隅守り同士なら、定跡どおり寄り添い
黒が隅守り(6f→6e)、白も隅守り(1a→1b)で応じた局面です。定跡の3手目は反対側の寄り添い 1f→2e。新しいAIは、隅守りの石をもう一歩寄せる 6e→5e を選びました。
それぞれ100局指させると、定跡の寄り添いが80パーセント、AIの手は49パーセントでした。ここは定跡が正しかった局面です。序盤は、手を広げるより先に塊を作るほうが勝ちやすいのです。
2. 相手が真ん中に出てきたら、前に突く
次は、黒の隅守りに、白が 5a→3c の渡り鳥で真ん中に飛び込んできた局面です。定跡はここでも寄り添いでした。新しいAIは、5f→5d の一本槍で石を2つ前に突きました。
結果は、定跡の57パーセントに対して、一本槍は88パーセント。相手が真ん中に出てきたら、守りを固めるより、前に出て勝負を決めにいく。これが新しいAIの答えでした。この結果を受けて、最強CPUの定跡表と、ゲームの「学ぶ」タブの3手目の表を書き換えています。
1手目と2手目の組み合わせ=戦法
bocchでは今まで、寄り添いや一本槍のように、1手ずつに名前を付けてきました。ところが新しいAIで調べ直すと、1手目が同じでも、2手目しだいで勝率がまったく変わることがわかりました。
そこで、自分の1手目と2手目の組み合わせを「戦法」と呼び、よく指される10個に名前を付けました。黒でも白でも、同じ形なら同じ名前です。名前があれば、今の序盤が何だったかを一言で言えて、覚えるのも人と話すのも楽になります。将棋の矢倉や四間飛車と同じです。
下の図は、黒が2手指したところです(白の手は省いています)。それぞれの戦法から200局ずつ、新しいAI同士で指させました。
本格派:相手が正しく受けても強い
- 盾槍:寄り添いで盾を作り、その隣の石を一本槍でまっすぐ出す。相手が最善で応じても勝率47パーセントで、10個の中でいちばんです。昔の定跡でも本線でした。
- 送り鳥:寄り添いの隣の石を、渡り鳥で斜めに飛ばす。相手が適当なら86パーセント、最善で応じても42パーセントです。
奇襲型:知らない相手には大きく勝てる
- 双璧:左右の端を両方寄せる。相手が適当なら87パーセントで、10個の中でいちばん勝ちます。ただし肩寄せで受けられると苦しくなります(双璧の記事)。
- 先駆け:真ん中に出てから、端を寄せる。
- 片隅:隅守りのあと、反対側の端を寄せる。
- 双刃:寄り添いと、反対側の渡り鳥を組み合わせる。
変わり種:手損定跡
隅守りで1歩出てから、もう1歩寄る戦法です。できあがる形は、寄り添いを1手で指したときとまったく同じなので、1手まるごと損をしています。それでも、相手が肩寄せで受けた局面では35パーセント勝っていて、思ったほど悪くありませんでした。
やってはいけない戦法
- 迷子:はぐれ雲で飛び出してから寄せる。相手が適当でも、勝率は4割を切ります。
- 撃龍槍:一本槍と正面突破で、2本突っ込む。
- 浮浪雲:渡り鳥とはぐれ雲で、石がばらばらになる。
撃龍槍と浮浪雲は、相手が適当に指してきても勝率6パーセント以下で、ほぼ勝てません。端の石を放っておいて真ん中へ飛ばすと、新しいAIには必ずとがめられます。
まとめ
- 序盤は、近くを固めるのが基本。
- ただし、相手が真ん中に出てきたら、前に突く。
- 戦法なら、盾槍と送り鳥が本格派。双璧は強いが、肩寄せで受けられたら別の手に切り替える。
ゲームの中で自分の2手目に戦法を指すと、その名前が盤に浮かび上がります。新しい最強CPUと、ぜひ戦ってみてください。
この記事は、YouTube「bocch定跡研究」第24回の内容を読みものにまとめ直したものです。双璧が肩寄せに受けられたときの勝率は、その後の測り直し(第25回)の数字に置き換えています。